ステマ規制への理解・対応が追い付かず、頭を悩ませていませんか?この記事では、ステマ規制の要点から具体例、対策までを一挙に紹介します。規制がどのように運用され、どのように対応すべきかを分かりやすく解説します。EC・広告担当者にとって必読の内容となっていますので、参考にして下さい。
【目次】
1.ステマ規制とは?
2.ステマ規制が導入された背景
3.ステマ規制の要点・ポイント
4.ステマ規制の基準:具体例6選
5.ステマ規制に違反しないために:事業者に求められる対策と心構え5選
6.終わりに
1.ステマ規制とは?
【ステマとは?】
「ステマ」とは、「ステルスマーケティング」の略称です。
「ステルス」は「隠密」や「忍び」といった意味であり、以下のように消費者に隠したり偽ったりして行われる情報発信を指します。
● 広告である事を ”隠して” 芸能人やインフルエンサーに好意的な情報発信をしてもらう行為
● 自社と無関係の第三者(一般消費者)に ”なりすまして” 自社の商品・サービスを宣伝する行為
【ステマ規制とは?】
「ステマ規制」とは、「ステルスマーケティングに対する景品表示法による規制」の事です。
2023年3月末、消費者庁は「景品表示法の不当表示としてステマを指定する告示」を発出し、施行日を10月1日としました。
※消費者庁:一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示(pdf)
簡単に説明すると、「ステマ」が「法律上の規制対象」となり、違反した場合は措置命令の対象となり得るという事です。
商品・サービスを提供しており、広告を運用・委託する以上「決して無視できない重要テーマ」となります。
EC・Webサイトの運用者や広告担当者、経営者や事業責任者の皆様にとって必見ですので、次章から詳細を確認しましょう。
2.ステマ規制が導入された背景
【SNSの普及・インフルエンサーの台頭】
「ステマ」の問題性が一気に拡大したのは、SNSが普及した近年です。
YouTube、Instagram、Twitter等の普及とともに、各プラットフォーム上で影響力を持つ人が登場しました。
多くの登録者やフォロワーを抱える、いわゆる「インフルエンサー」と呼ばれる人たちです。
企業がネット上で影響力を持つ人に広告を依頼する事は「インフルエンサーマーケティング」と呼ばれるまっとうな手法です。
しかし、SNSの普及・インフルエンサーの台頭が進む中で、投稿(発信)が「広告」なのか「ステマ」なのか?を見分けるのが困難になりました。(※下図参照)
【日本の法整備の遅れ】
ステマによる一般消費者の被害や炎上事件が社会問題になる一方、日本ではステマを直接的に規制できる法律が存在しませんでした。
消費者庁が調査によると、「OECD加盟国(名目GDP上位9カ国)において、日本だけがステマに対する規制がない」事が指摘されています。
※消費者庁:ステルスマーケティングに関する実態調査(pdf)
そのため従来は、ステマの ”内容” が、景品表示法で不当表示とされている内容に該当する場合でのみ、規制されていました。
具体的には、以下の3つのケースです。
1)優良誤認表示(景品法第5条1号):商品・サービスの「質」を実際よりも良く見せる表示
2)有利誤認表示(景品法第5条2号):商品・サービスの「価格/条件」を実際よりもお得に見せる表示
3)内閣総理大臣が指定する表示(景品法第5条3号):特定商品・サービスについて誤認の恐れがある表示
上記はいずれも、”内容面” での規制であり、「ステマ行為(隠す事)」そのものを規制するものではありませんでした。
以上の状況を鑑みて、消費者庁は「指定告示」という形でステマを規制する方針を打ち出し、施行日を2023年10月1日としました。
<補足>
指定告示とは、上述の3つのケースのうち、「3(内閣総理大臣が指定する表示)」に該当します。
現在は、以下の「6つ」が適用されていますが、新たに「ステマ」が追加され、合計7つになるという事です。
1)商品の原産国に関する不要な表示
2)無果汁の清涼飲料水についての表示
3)消費者信用の融資費用に関する不当な表示
4)不動産のおとり広告に関する表示
5)おとり広告に関する表示
6)有料老人ホームに関する不当な表示
早急にステマを規制すべく、法律そのものの改正ではなく、「指定告示(追加)」というカタチに踏み切ったと言われています。
3.ステマ規制の要点・ポイント
指定告示と一緒に、「運用基準(ガイドライン)」が公表されました。
どのような場合はステマ規制の対象となり、どのような場合は対象とならないのかを明示したものになります。
※消費者庁:令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。
※消費者庁:「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準 (pdf)
色々と記載されていますが、要点・ポイントをかいつまむと以下です。
【ステマ規制の対象は?】
● 規制の対象となる「表示(広告)」は、「形式」や「プラットフォーム」を問わない
「テキスト」でも「画像」でも「音声」でも「動画」でも、全て規制の対象となります。
ex.新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、SNS、ECサイト等
● 規制の対象者は、商品・サービスを提供する「事業者(広告主)」
「事業者(広告主)の依頼を受けた第三者」の投稿であっても、責任の所在は「事業者(広告主)」にあり、ステマ規制の対象となります。
アフィリエイト広告やインフルエンサー施策に取り組む企業は、「運用(リスク対策)」を従来よりも慎重に行う必要があります。(チェックの手間が増えるので、運用負担も今まで以上にかかる点を覚悟しましょう)
【ステマ規制の判断基準は?】
主には、以下の2つです。
1)広告である事が「明瞭 or 社会通念上明らか」か否か?
2)事業者(広告主)が「第三者の表示内容の決定に関与」しているか否か?
本章はあくまでも「ポイント」の紹介にとどめます。
次章で、具体例とともに詳細を確認してみましょう。
4.ステマ規制の基準:具体例6選
前章で紹介した内容を理解するために、具体例を6つ紹介します。
先に内容だけを紹介しますので、「規制の対象になる/ならない」を考えた上で、読み進めてみましょう。
<ご留意頂きたい事>
・本章の具体例は、2023年9月21日時点の情報に基づいて作成しています。最新の情報は、逐一、消費者庁の情報を確認しましょう。
・事業主(広告主)と第三者(ex.インフルエンサー等)との間にある付帯条件や背景・文脈により規制判断は異なります。具体的な場面での判断は、その都度、社内法務や担当弁護士に相談しましょう。
【ケース1:とあるインフルエンサーのInstagram投稿】
例えば、以下のような投稿があったとします。
この場合、ステマ規制の対象になるのでしょうか?
ここ最近、寝不足な状態が続いていました…。
どうすれば良いか悩んでいた時にモニター依頼を受けたのが# 株式会社●●さんの【×××(サプリメント名)】。絶対に試してみたい!!と思い、この度、無償モニターを引き受けました。
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# プロモーション
# 株式会社●●
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【ケース2:とある一般消費者のTwitter投稿】
例えば、以下のような投稿があったとします。
この場合、ステマ規制の対象になるのでしょうか?
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これ毎日飲んでいたら口周りのニキビが治りました!
肌荒れに悩んでいる人におすすめです。
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【ケース3:とある化粧品メーカーのサンプリング施策】
例えば以下のようなケースでは、ステマ規制の対象になるのでしょうか?
・新商品の美容液「×××(商品名)」を発売
・一般消費者に「×××」のサンプルを無料配布する代わりに、SNSで感想を投稿してもらう施策を実施
・なお、投稿内容については一切関与していない
【ケース4:とある食品メーカーのクーポン施策】
例えば以下のようなケースでは、ステマ規制の対象になるのでしょうか?
・新商品のサプリメント「×××(商品名)」を発売
・自社ECサイトで「×××」を購入後、レビュー機能を使い感想を投稿してくれた全てのお客様に、割引クーポンを配布
・なお、投稿内容がクーポンの配布に影響を与える事はない
【ケース5:とある衣料品メーカーのギフティング施策】
例えば以下のようなケースでは、ステマ規制の対象になるのでしょうか?
・認知拡大を目的として、ギフティング施策を実施
・インフルエンサー数十名に商品を送付後、「よかったらSNSにアップして下さい」とメッセージ
・実際に、複数名のインフルエンサーが自主的に感想を投稿してくれた
・なお、投稿内容については一切関与していない
【ケース6:とある健康食品メーカーのプレゼント施策】
例えば以下のようなケースでは、ステマ規制の対象になるのでしょうか?
・新ブランド「×××(ブランド名)」のECサイトを立ち上げた
・認知拡大を目的として、Twitterを使ったキャンペーンを実施
・自社ECサイトで商品を購入後、「# ×××(ブランド名)」のハッシュタグをつけて感想を投稿してもらう
・この中から、抽選で「10名様」に商品の詰め合わせセットをプレゼント
・なお、投稿内容がプレゼントの抽選に影響を与える事はない
《ストップ!ご自身の考えを整理してから読み進めましょう!》
いかがでしょうか?
考えは整理できましたか?
答えを申し上げます。
上記1~6、全て、ステマ規制の対象には「なりません」。
以下、解説です。
【ケース1:とあるインフルエンサーのInstagram投稿】
ステマ規制の対象にはなりません。
なぜなら、本文中の文章やハッシュタグを見ても、この投稿が「広告である事」が明らかだからです。
「無償モニターを引き受けました」や「# プロモーション」など
【ケース2:とある一般消費者のTwitter投稿】
ステマ規制の対象にはなりません。
なぜなら、そもそもこの投稿は「広告」ではないからです。
一般消費者による自主的な投稿(口コミや感想)は規制対象にはなりません。
※仮にこの投稿が広告の場合、ステマ以前に薬機法の観点でNG表現が書かれているので、即アウトです。
【ケース3:とある化粧品メーカーのサンプリング施策】
ステマ規制の対象にはなりません。
なぜなら、この化粧品メーカーが「第三者の表示内容の決定に関与」していないからです。
※仮に、「良い感想だけ」を書くように指示している場合は、ステマ規制の対象となります。
【ケース4:とある食品メーカーのクーポン施策】
ステマ規制の対象にはなりません。
なぜなら、この食品メーカーが「第三者の表示内容の決定に関与」していないからです。
※仮に、「星5を付けてくれた購入者には」などと制限している場合は、ステマ規制の対象となります。
【ケース5:とある衣料品メーカーのギフティング施策】
ステマ規制の対象にはなりません。
なぜなら、この衣料品メーカーが「第三者の表示内容の決定に関与」していないからです。
※仮に、インフルエンサーと事業者との間で対価を伴う取引関係や契約がある場合は、ステマ規制の対象となります。
【ケース6:とある健康食品メーカーのプレゼント施策】
ステマ規制の対象にはなりません。
なぜなら、この健康食品メーカーが「第三者の表示内容の決定に関与」していないからです。
※仮に、「商品・サービスの印象を左右するようなハッシュタグ」を指定している場合は、ステマ規制の対象となります。
ex.「# 胸を大きく」「# こんなに簡単に痩せるなんて」等
※本ケースは判断が難しいですが、「ハッシュタグの内容に寄りけり」というところです。消費者庁のガイドラインにも以下の場合は「第三者の自主的な意思による表示内容と認められる(非ステマ)」と明記されています。
「第三者が、事業者がSNS上で行うキャンペーンや懸賞に応募するために、当該第三者の自主的な意思に基づく内容として当該SNS等に表示を行う場合」
※基準事業者が表示内容の決定に関与したとされないものについて 「カ」
5.ステマ規制に違反しないために:事業者に求められる対策と心構え5選
ステマ規制に違反しないために、事業者に求められる対策と心構えを5つ紹介します。
【1)判断に迷うものは、全てに「広告」「宣伝」「PR」と付ける】
この後も色々と書きますが、最も重要な対策はコレに尽きます。
広告である事を隠すから「ステマ」になるワケです。
「記事広告」「アフィリエイト」「インフルエンサーマーケティング」…何であろうが、広告なら広告だと明記すれば良いのです。
【2)過去の表示(投稿内容)にも、「広告」と付ける】
ステマ規制の対象は、施工日の「2023年10月1日時点で存在する表示(投稿内容)」です。
つまり、 ”2023年9月30日以前に掲載したものでも10月1日以降に閲覧可能な表示” は規制対象となります。
ex.アフィリエイターが作成したWebサイトの記事、インフルエンサーのSNSの書き込み等
そのため、「使っていないものは削除」「ステマに該当するものは広告・PR表記」といった対応が必要です。
上記の1でも書きましたが、判断に迷う際は、過去の表示であっても「すべてに広告・PR表記を加える」のが無難かと思われます。
【3)自社Webサイト・LP内でも表記に注意】
ココも見落としがちなので要注意です。
消費者庁のガイドラインには、以下の内容が明記されています。
● 事業者が表示内容の決定に関与したとされないものについて
※基準事業者が表示内容の決定に関与したとされないものについて 「キ」
事業者が自社のウェブサイトの一部において、第三者が行う表示を利用する場合であっても、当該第三者の表示を恣意的に抽出すること(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)なく、また、当該第三者の表示内容に変更を加えること(例えば、第三者のSNSの投稿には事業者の商品等の良い点、悪い点の両方が記載してあるにもかかわらず、その一方のみの意見を取り上げ、もう一方の意見がないかのように表示すること。)なく、そのまま引用する場合。
つまり、第三者の表示をそのまま掲載するのはOKだけど、加工するならその旨を明記しようという内容です。
よく、LP内で「お客様の声」や「専門家の声」のようなコンテンツを用意する事があるかと思います。
その際、加工しているのであれば、「弊社から依頼し頂いたコメントを編集して掲載しています」のような表記が必要になります。
【4)ステマか否かだけでなく、広告なら「薬事」への注意も引き続き】
ステマ規制にばかり注意を向けてはいけません。
前章の「ケース2」でも解説しましたが、広告である以上は「薬機法(旧 薬事法)」への注意が必要です。
特に「薬機法」では、皆さんご存じの通り「何人(なんびと)も規則」です。
禁止される対象広告の主体は限定されておらず、規制の対象者は「何人も」、つまり「全ての人」です。
広告に関与すればメディアや代理店、制作会社、アフィリエイター、インフルエンサー、ライター、全ての人が規制対象になります。
※デジタル庁│e-GOVポータル「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)」【第10章「医薬品などの広告」:第66~68条】
【5)社内ガイドラインの作成・教育】
上記1~4までの内容を押さえた上で、それを社内ルール・ガイドライン化させ、教育する事が重要です。
従業員数が多くなるほど、代表者や事業責任者の預かり知らない所で規制対象となる「リスク」が高まります。
また、言語化・共通化しない限り、従業員ごとに「解釈」や「アウトプットの品質」にばらつきが生じます。
「リスク回避」「解釈/アウトプットの均質化」という面からも、暗黙知から脱却した「ガイドライン化」がは必須だと言えます。
参考までに、ステマ規制の「検討会」に参加されていた「WOMJ(WOMマーケティング協会)」様のガイドラインを記載します。(ハッシュタグの使用ルール等を定めているので参考になる部分が多いかと思います)
※WOMJガイドライン本文と解説(pdf)
6.終わりに
いかがでしたか?
今回は、2023年10月1日から施行される「ステマ規制」について紹介しました。
本コラム以外でも、ステマ規制に関しては多くの情報が出回っています。
しかし、要点を押さえないまま、消費者庁の発表(pdfに記載された内容)をそのまま転記しているような情報が多い印象でした…。
そこで、本コラムではできるだけシンプルに解説してみました。
改めておさらいすると、ポイントは以下です。
● 規制の対象となる表示は、「形式」や「プラットフォーム」を問わない
● 規制の対象者は、商品・サービスを提供する「事業者(広告主)」
● 規制の判断基準は、以下の2つ
└ 1)広告である事が「明瞭 or 社会通念上明らか」か否か?
└ 2)事業者(広告主)が「第三者の表示内容の決定」に関与しているか否か?
EC・広告担当者は本コラムの内容を参考にして、早急に実務対応しましょう。
また、経営者や事業責任者の方は、規制内容の社内周知を徹底し、ガイドライン作成・教育を進めましょう。
10月1日の施行後も、どのような動きがあるか分かりません。
今後の消費者庁の発表にも引き続きアンテナを立てましょう。